理数研セミナー顧問 宮田敏美

■1冊だけのテキスト

 「理数研の数学」の最大の特徴は、1冊だけのテキストを次第にステップアップしながら繰り返し勉強するという「スパイラルシステム」にあります。「理数研セミナー」を始めて 50年以上になりますが、開講時の私の初志を端的に表現しますと、 テキストと講義を一体化した形での理想的な数学教育というものを追求してみたいということでした。 私がそのような志を抱くに至りましたのは、高校や予備校での長年の講師経験を通して、数学の教え方、学び方に大きな疑問を持ったからでした。

 最大の疑問は、使用する教材の多さです。高校1年から高校3年までに用いる数学の教科書・参考書・問題集は、 夏休みの宿題や塾・予備校のテキストなども含めると20冊を超えるのではないでしょうか。 しかし、福沢諭吉らが「適塾」で、ただ1冊しかない辞書の順番を待ち、それを引くために寝食を忘れたという例を挙げるまでもなく、 この多すぎる教材が、本来地道にしかやるようのない勉強に役立っているとは到底思えません。 むしろ、ほとんど全ての生徒は情報の洪水に溺れ、「自分がどこまで理解していてどこから理解していないか」さえもわからなくなっているのが実情なのです。

 大学入試の数学は非常に広範囲にわたっていますが、それでも本当に根本的なことはそれほど多いわけではなく、 必要にして十分な内容を1冊のテキストに収めることは可能なのです。ただそのためには、高校数学の全貌を十分把握し、 到達目標を明確に定め、それを各学年各学区に割り当て、第1ページ目から最後のページまで一切の無駄を省き、 しかも大切なことは1つ漏らさずおさめるという方針で著されていなければなりません。

■テキストと講義の一体化

 市販の問題集には入試問題を羅列しただけのものが多いのですが特に、基礎問題には入試問題をそのまま持ってくるなどということはもっての外です。 入試問題は所詮試すために作られた問題であり、理解させるために作られた問題ではないからです。 そもそも教師は「そこにxという問題があるから、その解法を教える」というのではなく、 「Xということを理解させたいから、xという問題を設ける」でなければならないはずなのです。そのためには、一問一問を教える者自身が創作し、 しかもその順序に論理的飛躍を無くすのは勿論のこと、「わかったような気がする」から「わかった」までの感性的な流れまでも考慮して、 極めて注意深く配列しなければならないのです.机上でどれほど想を練ろうとも、それだけで理想的なテキストを作ることがいかに不可能なものであるかを、 私はいやというほど実感してきました。或るテーマを理解させるために十分考え尽くしたつもりの一連の問題が、実際に講義してみるとなかなか理解してもらえず、 配列あるいは問題そのものを作り直すということなど、始終繰り返してきたことで、長年このようなことを繰り返して練り上げられた「講義と一体化したテキスト」は、 他に類のないものと自負しています。

■スパイラルシステム

 理数研のM/S講座のテキストは、全14章(1〜10章:文/理系共通範囲、11〜14章:理系範囲)のそれぞれを10節程度に分けてあり、 さらに問題をA、B、C、Dにランク分けしてあります。Aは、教科書で言えば導入部分の解説に当たるところで、定義・定理・公式の説明とその使い方を問題形式にして提示しています。 Bには、各分野の根幹となる事項を網羅してあり、共通テストはもとより、国公立大学の2次試験の典型問題は楽に解けるようになるような問題を収めております。 さらに、C・Dには、最難関大学の受験にも十分対応できるレベルの問題を収録してあります。 そして、1回目にはテキストのA・Bの解説と演習を行い、最後の章まで終わったら、再び第1章へ戻り、A・Bを復習しながらCの演習へと進み、 さらに最後の章まで終わったらA・B・Cを復習しながらDの演習に取り組みます。 このようにステップアップしながら何度も繰り返すことから「スパイラルシステム」と呼んでいます。 しかもそれを1冊だけのテキストを繰り返すことによって行うというところに注目して欲しいのです。 この「理数研のテキスト」1冊をマスターするだけで、高校での数学を履修しなくても、東大・京大理系レベルの入試数学を解ける所まで到達できると断言してはばかりません。  また、当セミナーでは、テキストの解答用紙として専用の統一した「ノート」を用意しています。 「スパイラルシステム」を生かすためには、ある章のC・D問題に挑戦する時に、以前学んだその章のA・B問題のノートを見直して復習して欲しいわけです。 そのためには時系列のノートではなく、章別に整理できるノート、つまり便箋式に1枚ずつバラバラにしてファイルできるものでなくてはなりません。 理数研の専用ノートは、それに最適なように印刷・孔開けをしてあります。 要するに、理数研のテキストを完全にマスターしてもらいたいという私の願いの一つの現われと理解して下さい。

■独特な解法と正統的な解法

 勿論、「理数研の数学」の特徴は、「1冊だけのテキスト」と「専用ノート」という形式的なものだけではありません。 いや、そんな形式を遥かに超えた特徴として、様々な問題で、参考書や高校・予備校等では全く学べない「独特な解法」があります。 今、「独特な解法」と言いましたが、実は決して「特別な解法」ではなく、「理数研」では、学問としての数学の本質に基づいた「正統的な解法」を心掛けています。 それが、高校生だからという言い訳付きの解法や、受験用のテクニックを駆使した解法と比べると、逆に「特別」に見えるのです。 また、高校ではほとんど用いられない論理記号を多用するのも「理数研の数学」の大きな特徴です。論理記号を使って推論の過程を明確にすることによって、 他の人が見ても論理的に分かり易い答案を書いて欲しいからです。 他人に分かり易い答案を書ける人は、自分もよく理解している人なのです。 ただ、この「理数研の数学」の内容的な特徴は文章で力説してもなかなか理解してもらえないと思います。 過去に「理数研」で学んだ先輩(各界の第一線で活躍している人が多数います)に聞いてみてください、と言いたいところですが、 その一端は「合格体験記」を見てもわかってもらえると思います。 なお、物理・化学・生物も数学と同様な考え方でテキストを作り、講義を行っております。 以上のような趣旨を十分理解していただいた上で、「理数研の数学・理科」に取り組んでみようという意欲と余裕のある諸君の受講を希望しています。